札幌高等裁判所 昭和29年(う)461号 判決
原審で所論のような訴因の変更或は予備的追加があつたことは記録上明かである。しかし最初の訴因である「被告人が在日米軍伍長ウエヴアリー・ヒントン(昭和二十七年政令一二七号第三条により外国為替及び外国貿易管理法の適用上非居住者である)に米国軍票五百十弗を支払つた」との公訴事実と、変更後の訴因である「被告人が米国軍票五百十弗を所持しながら同日頃遅滞なく日本銀行に寄託することなくウエヴアリー・ヒントンに手交した(ウエヴアリー・ヒントンに手交したと言うのは罪となる事実でなく、日本銀行に寄託しないことが確定的になつた事情であると釈明されている)との公訴事実を比較して見ると、犯罪の日及場所は同一であり、米国軍票も同一物である。そうして両訴因とも外国為替及び外国貿易管理法第一条に明示されている同法の目的を害する行為として同法の違反罪となる事実である。つまり同一の米国軍票に対する右違反罪となる事実を支払の点において把握するか、日本銀行に寄託しなかつた点において把握するかと言うことになるのであるから、両訴因はその公訴事実は同一であると見るのが正しく従つて右の訴因の変更は適法と解すべきである。しかのみならず、その後最初の訴因が予備的訴因として追加せられ原審はその予備的訴因である支払罪につき被告人を有罪と判決したものであつて、結局起訴状に表示せられた訴因について審判したこととなるから原判決は請求を受けない事件について判決したものではなく、また判決に影響を及ぼす手続違反もないわけである。論旨は理由がない。
同控訴趣意第二点法令適用の誤について
所論は原判示の「被告人がウエヴアリー・ヒントンに対し、同人より額面五百弗の米国郵便為替券を受け取るため、米国軍票五百十弗を支払つた」との事実は外国為替及び外国貿易管理法第二十七条に所謂支払には該当しないと言うのであるが、前記のウエヴアリー・ヒントンの供述調書によると、被告人はウエヴアリー・ヒントンに対し米軍の軍事郵便局で五百弗の郵便為替を取組むことを依頼し、十弗はその報酬として合計五百十弗を右ヒントンに手交し、やがて右ヒントンから五百弗の郵便為替証書を受取つたのであるが、右の郵便為替の送金名義人は被告人自身ではなく、米国人名義であることが明白である。従つて被告人の所為はヒントンから米国人名義の五百弗の郵便為替証書を買受け、五百弗はその代金としてヒントンに交付したか、或はヒントンに対し米国名義人の郵便為替証書の取組方を委任し、ヒントンがその受任事務を処理するための費用として五百弗を交付したものと認むべく、いづれにせよ、ヒントンに五百弗を郵便局へ持参させたと言うのではない。即ち五百弗の米国軍票の所有権は被告人からヒントンに譲渡されたものであつて、支払であると言わねばならない。報酬としての十弗の交付が支払であることは言うまでもない。故に原判決には所論の如き法令適用の誤はなく、論旨は理由がない。
(裁判長判事 熊谷直之助 判事 水島亀松 判事 松永信和)